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神戸家庭裁判所 昭和61年(少ハ)2号 決定

少年 B・Y(昭43.1.12生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。

理由

(申請の理由)

少年は、昭和60年5月9日、神戸家庭裁判所において、ぐ犯・窃盗・住居侵入の非行により中等少年院送致の決定を受けて加古川学園に収容され、同61年7月8日同少年院を仮退院し、実父B・Mを引受人として同人のもとに帰住し、以来、神戸保護観察所の保護観察下にある者であるが、保護観察の期間中、犯罪者予防更生法第34条第2項の定める事項(以下「一般遵守事項」という)及び同法第31条第3項に基づいて近畿地方更生保護委員会が定めた遵守事項(以下「特別遵守事項」という)を遵守する義務を負い、かつ、少年自身、仮退院に際し、これらの事項を守つて健全な社会人になるよう努力する旨及びこれに背いたときは少年院に戻されても異存がない旨を誓約しているにもかかわらず、

(1)  少年院仮退院以降全く就労せず、徒遊生活を続け、

(2)  上記徒遊生活を送る間金銭に窮し、再三にわたり実母に対して金銭を強要し、拒否された際には、実母に暴力を振るい、あるいは、包丁を突き付けて脅し、

(3)  仮退院後間もない7月、自宅近くの神戸市○区○○○の雑木林において単独でシンナーを吸引したほか、8月には、自宅において仲間数人と共に4、5回シンナーを吸引した

もので、(1)の行為は、一般遵守事項第1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること」後段及び特別遵守事項第5号「定職について、なまけずに働くこと」に、(2)及び(3)の行為は、一般遵守事項第2号「善行を保持すること」に、それぞれ違背している。

少年は上記の行動に対する保護者及び保護司の注意、指導、さらには保護観察官の指導にも一向に耳をかそうとせず、神戸保護観察所長の呼出しに対しても、これを無視するばかりか、呼出状を捨てる始末である。

以上のとおり、少年は、保護観察所の指導に従わず、遵守事項違反を続けているもので、保護観察を受けて更生しようとする意欲を欠いており、また、保護者がこれ以上の監護を続ける気力を失つている状況をも考慮すると、現状においては、保護観察による更生が期待できず、今後の非行を防止することは困難である。

よつて、少年を速やかに少年院に戻して収容し、矯正教育を施すことが相当である。

(当裁判所の判断)

本件記録及び少年の当審判廷における陳述によれば、申請の理由記載の事実(ただしシンナーを吸入したのはもつと多く20回位である)のほか、次の事実が認められる。

(1)  交友していた友人はかつての不良仲間で、少年法24条1項1号により保護観察に付された者や少年院を仮退院して保護観察中である者が多く、ほとんどの者が定職に就かずに徒遊していた。

(2)  ふだんは昼ごろまで寝て夕方から外出して、夜遊び、ドライブ、飲酒などをして朝帰りをしたり、帰宅せずに外泊するなど、昼と夜が逆転した生活をおくつていた。

(3)  遊興費欲しさから上記のとおり母に金を無心した際、強引に財布から金を抜きとつたり、母の制止をきかずに生活費を持ち出したりし、ときには母の勤務先に執拗に電話をかけ、応対に出た職員に悪態をついたため、母は勤務先にいづらくなつて退職するに至つた。また、就職する、作業着がいると称して、父から15,000円を受取り、作業着ではなく護身用の三段棒を購入した。

(4)  勤労意欲がないため求職活動も熱心にしたことがなく、面接をすつぽかしたり、面接を受けて断わられたりしたため、上記のとおり1日も働いたことがなかつた。

(5)  単車を無免許で運転したり、友人の無免許運転の単車に同乗することがあつた。

(6)  仮退院後、保護司を訪問したことは3回あるが、指導に素直に従う姿勢はなく、保護観察所の呼出に応じず、保護観察官が少年宅を訪問したときはすぐ外出して面接を受けなかつた。

申請の理由記載の事実及び上記の各事実は、申請の理由の指摘する各遵守事項及び一般遵守事項第3号「犯罪性のある者、又は、素行不良者と交際しないこと」、特別遵守事項第4号「無断外泊や家出をしないこと」、同第6号「定められたとおりに保護司をたずね、その指導に従うこと」に違反していることが明らかである。

少年は、幼少時甘やかされて育ち、けじめのある適切な躾を受けなかつたために基本的な生活習慣が身についておらず、小児的な自己中心性が強く、小学5年生ころから問題行動を起こすようになり、児童相談所の指導を受け教護院入所の措置をとられるなどしたが、他からの働きかけに対しては防衛的でこれを一方的圧力と受けとめて問題行動をエスカレートさせ、それにつれて両親の態度が次第に拒否的になつたことから、家庭に対する疎外感、反発心、まともな弟に対する被差別感を抱き、不良交友の仲間の中に安住しようとして、多くの非行、不良交友を繰り返し、国立教護院、初等少年院、中等少年院(2回)に次々と収容されて矯正教育を受けたのであるが、仮退院を許され帰宅すると、以前の不良友人との交友、シンナー吸入、新たな非行を重ね、徒遊の生活をおくつてきており、今回は窃盗・恐喝・強盗などの非行はなかつたものの、それ以外の生活態度が不良である点は従前と全く同じであつて、改善の意欲は稀薄であるというほかない。少年は観護措置決定手続に際し「窃盗などの悪いことをしていないのになぜ少年鑑別所に入れられるのか、早く出して下さい」などと憤慨し、審判廷においても自己の問題点を直視しようとせず、内省は深まらない。

少年の父は辛抱強く少年を受容する姿勢がなく、少年の問題行動が手にあまると拒否的になり、関係機関に依存し、自ら戻し収容を求め少年を家庭から切り離そうとし、母はやや少年に同情的であるが、一貫性がなく父の強硬な姿勢に従いながら少年に対しては引取るかのように弁解しており、現時点では少年と父母との間にこまやかな情緒的交流、基本的な信頼関係が存在せず、父母に適切な監護を期待することはできない。

以上の次第で、少年には自己の問題点についての認識及び改善の意欲が乏しく、家庭には監護能力と意欲が欠けており、保護観察所による指導も効果をあげられなかつたのであつて、現状のままでは少年の改善を期待することは著しく困難と認めざるを得ないから、この際、少年を中等少年院に戻して収容し、改めて矯正教育を加え、少年をして健全な社会性、勤労意欲、規範意識を養わさせ、年齢相応の社会的成長をさせるよう図ることが相当である。また、この間に、保護観察所において少年と家庭との関係を良好なものとするよう調整することを期待することとする。

よつて、犯罪者予防更生法43条1項、少年審判規則55条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 大串修)

処遇勧告書〈省略〉

参考1 少年調査票〈省略〉

参考2 鑑別結果通知書〈省略〉

参考3 戻し収容申請書〈省略〉

別紙 (I)

保護観察の経過及び成績の推移

1 本人は、昭和61年7月8日、加古川学園を仮退院し、同日、実父に同伴されて神戸保護観察所に出頭したので、主任官が遵守事項及び保護観察中の心得などについて説示した。

2 同日、指定帰住地である標記住居に帰住し、担当者を訪ねた。担当者は、仕事につくこと、シンナーを吸わないことを特に指導し、本人もこれを守ることを約束した。

3 仮退院後間もなく(日時不詳)本人は自宅及び近くの雑木林でシンナーを吸引した。

4 同年7月19日、実父が担当者を訪ね、少年のシンナー吸引及び金銭の無心につき指導方を要請した。

5 同年7月27日、本人が担当者方に来訪したので、担当者がシンナー吸引につき指導したが、本人は吸引を否認した。

6 同年7月30日、担当者が本人を同伴して神戸保護観察所に出頭した。主任官は、本人と面接し、指導を行ったが、本人はシンナー吸引を否認し、反省の態度は認められなかった。

7 同年8月上旬、○○市所在の「○○板金」に就職できる話があったが、本人に就労意欲がなく、これに応ぜず、不就業の状態が続いた。

8 同年8月8日指定の出頭指示に対して本人不出頭。

9 同年8月13日、神戸保護観察所に出頭した両親から、本人の家庭内での不良行為、金の無心につき訴えを受けた。

10 同年8月18日、本人に対し同年8月22日午前10時を指定して呼出状を発したが不出頭。

11 同年8月26日、主任官は担当者と同行して本人宅を訪問。本人は面接を避け、すぐ外出してしまった。

12 同年9月10日、両親が神戸保護観察所に出頭し、少年院に戻してほしい旨を訴えた。質問調書(乙)を作成。

13 同年9月19日、主任官が本人宅を往訪したが本人不在。実母から重ねて少年院に戻してほしい旨の訴えを受けた。質問調書(乙)を作成。

14 同年9月26日、引致状請求、同発付

15 同年10月2日、引致状執行。質問調書(甲)を作成。神戸少年鑑別所に留置。

別紙 (II)

申請の理由

本人は、少年院仮退院後の保護観察の期間中、犯罪者予防更生法第34条第2項の定めるところにより、同項各号に掲げる事項(以下「一般遵守事項」という。)及び同法第31条第3項に基づいて当委員会が定めた遵守事項(以下「特別遵守事項」という。)を遵守する義務を負い、かつ、本人自身、仮退院に際し、これらの事項を守って健全な社会人になるよう努力する旨及びこれに背いたときは少年院に戻されても異存がない旨を誓約しているにかかわらず、

〈1〉 少年院仮退院以降全く就労せず、徒遊生活を続け、

〈2〉 上記徒遊生活を送る間金銭に窮し、再三にわたり実母に対して金銭を強要し、これを拒否された際には、実母に暴力を振るい、あるいは包丁を突き付けて脅し、

〈3〉 少年院仮退院後間もない昭和61年7月中に、自宅近くの神戸市○区○○○の雑木林において単独でシンナーを吸引したほか、同年8月中には、自宅において仲間数人と共に、4、5回シンナーを吸引した

もので、〈1〉の行為は、一般遵守事項第1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」後段及び特別遵守事項第5号「定職について、なまけずに働くこと。」に、〈2〉及び〈3〉の行為は、一般遵守事項第2号「善行を保持すること。」に、それぞれ違背しているものである。

本人は、昭和60年5月9日、神戸家庭裁判所において、ぐ犯、窃盗、住居侵入の非行により中等少年院送致の決定を受け、加古川学園に収容され、同61年7月8日同少年院を仮退院し、実父B・Mを引受人として同人のもとに帰住し、以来、神戸保護観察所の保護観察下にある者であるが、上記のとおり、仮退院後間もなくシンナー吸引及び家庭内暴力を反復し、徒遊生活を続けているもので、これらの行動に対する保護者及び担当者の注意、指導、さらには、主任官の指導にも一向に耳をかそうとせず、神戸保護観察所長の呼出しに対しても、これを無視するばかりか、呼出状を破り棄てるという暴挙に及んでいる。

以上のとおり、本人は、保護観察所の指導に従わず遵守事項違反を続けているもので、保護観察を受けて更生しようとする意欲が欠けていると認めざるを得ない。また、保護者がこれ以上の監護を続ける気力を失っている状況をも考慮すると、現状においては、保護観察による更生が期待できず、今後の非行を防止することは困難と認める。よって、速やかに少年院に戻して収容し、矯正教育を施すことが相当である。

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